従来の創薬の課題に終止符を打つ、AIと実試験の融合
「もっと効率的に、もっと確実に、人々の健康を支える方法はないだろうか?」
現代の創薬や機能性食品開発の現場では、このような悩みを抱える声が少なくありません。新薬や健康に良いとされる成分の研究開発は、莫大な時間とコストがかかる上、動物実験の倫理的制約も厳しさを増しています。さらに、ヒトでの有効性を証明する確度を高めることにも限界があり、多くの企業が頭を悩ませてきました。
しかし、この度、キリンホールディングス株式会社と富士通株式会社が、その課題に一石を投じる画期的な共同研究の成果を発表しました。AIを活用した創薬DX技術と実試験を組み合わせることで、脳機能サポートに重要な成分であるシチコリンの「腸脳作用メカニズム」を世界で初めて解明したのです。
この研究は、まさに未来のヘルスケアを切り拓く一歩と言えるでしょう。従来の常識を覆し、より迅速で、より確実な方法で人々の健康に貢献する可能性を秘めています。
世界初!AIと実試験が解き明かしたシチコリンの秘密
今回の共同研究では、AIを活用した創薬DX技術の一つであるQSP(定量的システム薬理学)モデルを用いた食品機能性シミュレーションが実施されました。この技術は、疾患に関連する生体システムと創薬シーズの相互作用や体内動態、副作用などを数理モデルやコンピュータ解析で明らかにするものです。
キリンが持つデータと文献調査からシチコリンの代謝動態や作用に関わる受容体情報を収集し、このQSPモデルを構築。シミュレーションにより、驚くべき予測が立てられました。
予測されたメカニズム
- シチコリンの経口摂取が、腸-神経コリン作動性シグナルを高めること
- 腸におけるシナプス(神経細胞同士が情報をやり取りする接合部)内のアセチルコリン(神経伝達物質)量が、シチコリンの摂取量に依存して増加すること
これらのAI予測は、単なる仮説で終わることなく、腸管上皮細胞と神経細胞の共培養系を用いた実試験によって裏付けられました。シチコリンが腸を介して神経を活性化することが、実際の実験でも確認されたのです。
研究成果の具体的なデータ

このグラフは、経口摂取後のアセチルコリン結合型受容体の相対数を、シチコリン摂取群とコントロール群で24時間にわたり比較したものです。シチコリン摂取群で受容体数が増加していることが示されています。

シナプス内のアセチルコリンの相対量を、シチコリンの投与量別に比較した棒グラフです。シチコリンの投与量が増えるにつれてアセチルコリンの相対量が増加していることが示されています。

コントロール群とシチコリン投与群の電気生理学的波形を比較したグラフ画像です。シチコリン群では波形に変化が見られ、腸を介した神経活性化が実証されました。
この研究により、シチコリンが腸を介して神経を活性化する可能性が予測され、そのメカニズムの一端が明らかになったことは、健康長寿社会の実現に向けた大きな一歩と言えるでしょう。
DX技術がヘルスケアにもたらすメリットと、スタートアップが学ぶべきこと
今回の研究は、食品機能性研究にDX技術を本格的に活用した世界的に先駆的な事例です。このようなAI創薬DX技術の導入は、ヘルスケア分野にどのような変革をもたらすのでしょうか。
どんな悩みや問題を解決できるのか
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研究開発の非効率性: 従来の創薬は、膨大な時間とコストを要し、成功確率は低いものでした。AIシミュレーションは、候補物質の絞り込みを効率化し、研究開発のスピードアップに貢献します。
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高コスト体質: 開発期間の短縮は、そのままコスト削減に直結します。特に外注費削減にも寄与し、経営資源をより戦略的な領域に投入できるようになります。
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動物実験の制約: 動物愛護の観点や倫理的な問題から、動物実験の制約は年々厳しくなっています。in silicoシミュレーションは、動物実験を代替する可能性を秘めており、この課題解決に大きく貢献します。
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ヒトでの有効性証明の難しさ: バーチャル被験者シミュレーションにより、ヒトでの有効性証明の確度を向上させることが期待でき、より信頼性の高い製品開発が可能になります。
導入後のメリット・デメリット
メリット
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生産性向上とコスト削減: 研究開発のプロセスが大幅に効率化され、開発期間とコストを削減できます。
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競争力強化: 迅速な新製品開発と高い有効性証明により、市場での競争優位性を確立できます。
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新規機能性食品開発の加速: これまで解明が難しかった食品成分の機能性を科学的に裏付け、新たな市場を創造するチャンスが生まれます。
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倫理的問題の軽減: 動物実験の削減や代替により、倫理的な課題をクリアしやすくなります。
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イノベーションの創出: AIとデータサイエンスの活用は、これまでになかった発見や解決策を生み出す源泉となります。
デメリット
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初期投資: AIモデルの構築や専門人材の確保には、一定の初期投資が必要です。
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専門知識の必要性: 高度なDX技術を導入・運用するには、専門的な知識とスキルが不可欠です。
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データ精度への依存: シミュレーションの精度は、投入されるデータの質に大きく左右されます。高品質なデータ収集・管理体制が求められます。
スタートアップが学ぶべきこと
この事例から、スタートアップ企業は多くの示唆を得られるでしょう。
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AI・データサイエンスと既存技術の融合: 既存の産業や技術に、AIやデータサイエンスといった先端技術を組み合わせることで、これまで解決できなかった課題を突破し、新たな価値を創造する大きなチャンスがあります。
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異業種連携の重要性: キリン(ヘルスサイエンス)と富士通(IT・DX)のように、異なる専門性を持つ企業が連携することで、単独では成し得ない大きな成果を生み出せます。自社の強みを活かしつつ、外部のパートナーとの協業を積極的に検討しましょう。
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社会課題解決型ビジネスモデル: 「健康長寿社会への貢献」という明確な社会課題解決を目指すことで、単なる利益追求に留まらない、持続可能で意義のあるビジネスを構築できます。
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in silicoシミュレーションの活用: 研究開発の初期段階からコンピュータシミュレーションを導入することで、試行錯誤の回数を減らし、効率的かつ低コストでR&Dを進めることが可能です。これは限られたリソースで事業を進めるスタートアップにとって、特に重要な戦略となるでしょう。
まとめ:ヘルスケアの未来を切り拓くDX技術の可能性
キリンと富士通の共同研究は、シチコリンの腸脳作用メカニズムを解明しただけでなく、AIを活用した創薬DX技術がヘルスケア分野にもたらす計り知れない可能性を示しました。これは、時間とコストがかかる従来の創薬の課題を解決し、より効率的で倫理的な研究開発を可能にするものです。
この先進的な取り組みは、健康長寿社会の実現に大きく貢献すると共に、機能性食品開発における新たな価値創造を促進するでしょう。富士通は、QSPモデルに加え、量子コンピューティングやAI等の先端技術で、創薬や機能性食品の開発を支援し、人々のウェルビーイング向上に貢献していく方針です。
もし、あなたがヘルスケア分野でのイノベーションを模索しているなら、今回の事例はきっと、あなたのビジネスを加速させるヒントになるはずです。DX技術の導入を検討し、新しい価値創造に挑戦してみてはいかがでしょうか。
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