熱海市網代地区が抱える課題と、そこに見出した可能性
熱海市は近年、観光業の回復により年間宿泊客数が300万人を超えるV字回復を遂げました。しかし、この賑わいは熱海駅周辺に集中し、網代地区までその恩恵が十分に届いていないのが現状です。
モデレーターを務めた熱海経済新聞編集長の磯部氏は、2013年に網代を訪れた際の印象を「ほとんど人と会わず、閑散とした街で、本当に大丈夫なのだろうかという印象を受けた」と語っています。また、網代地区では年間約500人ペースで人口が減少し、廃校となった小学校の例からもわかるように、子どもの数も大幅に減少するなど、社会課題が山積していました。

しかし、この厳しい状況の中にも、網代地区には大きなポテンシャルが秘められていることが明らかになりました。トークセッションでは、その要点として以下の3つが挙げられました。
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「人」の魅力: 小さな町ならではの「人とのつながりを大事にする風土」があり、信頼関係が生まれると一気に結束する力があります。
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「不動産」の魅力: 熱海中心部と比較して安価で空き家が多く、国道135号沿いという立地から、認知度を高められれば人が集まる場所になると評価されています。都心へのアクセスも抜群で、海や山、温泉や食などの地域資源も魅力です。
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「ゼロイチを実現できる町」: 網代は、自分の希望を実現できる、新しい事業を始めるのに適した「ゼロイチ」のまちです。実際に事業を始める人や空き家を探す人が増えています。
網代地区で「ゼロイチ」を叶える具体的な取り組み
地域拠点「AJIRO MUSUBI」が拓く交流の場
網代で生まれ育ち、2021年にUターンした一般社団法人あじろ家守舎 代表理事の山﨑氏は、地元に戻った当初の寂しさを語り、「もっと人の賑わいがある、楽しく暮らせるまちにしたい」という思いで活動を始めました。

その活動の一つが、廃校となった網代小学校を利活用した地域拠点「AJIRO MUSUBI」の運営です。2025年8月にオープンしたこの施設は、1階にカフェやマルシェなどのイベントスペース、2階にシェアオフィスやコワーキングスペース、会議室を設けています。地域住民だけでなく、首都圏からの利用者も多く、まさに地域内外の人が集まる交流の場となっています。
「AJIRO MUSUBI」は、新たなコミュニティ形成を促し、多様な人々との出会いを通じて、新しいビジネスアイデアやプロジェクトが生まれる土壌を提供しています。既存施設を再利用することで、初期投資を抑えつつ、生産性向上にも貢献する好事例と言えるでしょう。
- 「AJIRO MUSUBI」公式サイト:https://www.ajiromusubi.jp/
「文脈不動産」で空き家問題に挑む「AJIRO LIFE」
網代地区の「不動産の魅力」を最大限に引き出すのが、AJIRO LIFE 株式会社 代表取締役の白木氏が提唱する「文脈不動産」です。これは、従来の不動産価値に、地域の文脈や人々の営みを価値として換算し評価するという考え方です。

白木氏は、熱海中心部と比べて安価で空き家が多い網代の不動産に高いポテンシャルを感じ、山﨑氏と共に「AJIRO LIFE株式会社」を設立しました。同社は、物件の利活用や運営代行を通じて、空き家問題を解決し、地域経済を活性化することを目指しています。
例えば、最近契約した純喫茶の物件は、リニューアルして昼は喫茶店、夜はスナックとして営業する予定です。また、宿泊場所が少ないという課題を解決するため、空き家をネットワーク化して宿泊施設として再生する「分散型ホテル」の計画も進められています。これらの取り組みは、地域資源の有効活用、新たな観光コンテンツの創出、競争力強化に繋がり、網代の魅力を高める重要な役割を担っています。
- 「文脈不動産」公式サイト:https://bmre.co.jp/
漁業との連携が生み出す相乗効果
網代地区のもう一つの大きな可能性は、古くからの主産業である「漁業」です。かつては釣り人でにぎわっていた網代港の防潮堤は、迷惑行為により釣りが禁止されていました。しかし、山﨑氏が2年間漁業関係者と粘り強く話し合いを続けた結果、朝どれ魚を販売する日曜市や釣り場解放のトライアルにこぎつけました。
この釣り場の開放には、地元以外の人たちの力も借りています。例えば、静岡県西伊豆町の株式会社ウミゴーと連携し、同社が開発した釣り場や駐車場を予約するアプリを活用することで、管理体制を強化し、外注費を削減しながら効率的な運営を実現しています。このような漁業と観光の連携は、相乗効果を生み出し、網代地区の特別な価値を高めることに貢献しています。
網代地区でスタートアップや企業が学ぶこと
移住・二拠点生活の魅力と都心からのアクセス
白木氏は、網代地区を「自転車で片道15分の距離にどれだけのコンテンツ密度があるのかが、そのエリアの強さを示す指標になる」と評価し、海や山、温泉、食の魅力を強調しました。都心へのアクセスも抜群で、移住や二拠点生活に絶好の場所であると語ります。実際に網代から都内へ出社し、新幹線での帰路を「最高の贅沢」と話す人もいるとのことです。自然豊かな環境での生活は、心身のリフレッシュを促し、結果的に生産性向上にも繋がる可能性があります。
ローカルイノベーション成功の鍵は「連携」
網代地区でのローカルイノベーションの成功は、地域の人々との「連携」に深く根ざしています。地元で生まれ育った山﨑氏は、その人脈を活かして地域と人を繋ぎ、移住者が地域に溶け込む大きな役割を果たしています。一方、白木氏は地元出身ではないからこそ、網代の価値を客観的な視点から見つけ出し、引き出す役割を担っています。
この二人の役割分担は、スタートアップや企業が地方で事業を展開する上で非常に重要な示唆を与えます。地元視点での課題理解と、外部からの新しい視点や技術の融合が、持続可能な地域活性化とビジネスの成長を両立させる鍵となるでしょう。
あなたのビジネスを「意外と熱海 for Biz」がサポート
熱海市とJTBが連携して展開する『意外と熱海 for Biz』は、熱海でのビジネス利用をワンストップでサポートする事業です。企業研修プログラム、会議・研修会場の手配、ワーキングスペースの紹介、宿泊施設や体験コンテンツの予約など、多岐にわたるサービスを提供しています。
法人担当者のお悩みを解決する「『意外と熱海 for Biz』Service Desk」の開設や、ビジネスニーズに対応したコンテンツを提供する法人利用情報サイトの運営を通じて、企業は企画・手配の効率化、コスト削減、そして充実した環境での生産性向上を実現できます。
- 法人利用情報サイト:https://www.atami-biz.jp
まとめ:網代地区が描く未来図
今回のトークセッションを通じて、熱海市網代地区が持つ「人」「不動産」「ゼロイチ」のポテンシャルが、いかに地域課題の解決と新たなビジネスモデルの創出に貢献しているかが明確になりました。寂しさを抱えていた漁師町が、地域住民の熱意と外部からの新しい視点、そして官民連携の取り組みによって、着実に「ゼロイチのまち」へと変貌を遂げています。

網代地区の事例は、地方創生を目指す他の地域や、地域資源を活用した新規事業を検討するスタートアップ、そして新しい働き方やライフスタイルを求める個人にとって、大きなヒントと勇気を与えてくれるでしょう。ぜひ、この魅力あふれる網代地区で、あなたの「ゼロイチ」を実現する一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。熱海市とJTBは、その挑戦を全力でサポートしてくれるはずです。
次回、2026年1月下旬にも熱海に関するイベント開催が予定されており、さらなる情報発信が期待されます。
