地域医療の未来を揺るがす「医師偏在」問題の深層
高齢化と人口減少が進む現代日本において、地域医療の持続可能性は喫緊の課題となっています。特に「医師偏在」は長らく議論されてきましたが、その実態は公的な指定だけでは見えない、より複雑なものかもしれません。
株式会社eヘルスケアが実施した医師601名を対象とした「医師偏在と対策に関する調査」は、地域医療の現場が抱える深刻なひずみを浮き彫りにしました。この調査結果から、私たちが本当に知るべき医師不足の現状と、その解決に向けてどのようなアプローチが有効なのかを考えてみましょう。
現場の医師たちが直面する「隠れ医師不足」とは?
「医師が少ない地域で働いている」と感じる医師は全体の33%に上ります。しかし、驚くべきことに、その約半数は公的に定められた「医師少数区域」ではない場所で勤務していることが判明しました。これは、制度上の指定だけでは捉えきれない“隠れ医師不足”が、より広い範囲で進行していることを示唆しています。
医師たちは、次のような切迫した状況に直面していると語ります。
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「医師1人で100人入院している病院の平日勤務をすることがある」(徳島県・精神科)
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「専門医のいない中での対応に迫られる」(長崎県・皮膚科)
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「信頼できる紹介先がなかなか見つからない」(茨城県・内科ほか多数)
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「救急患者、とくに心肺停止患者が同時に搬送される事態となると心苦しいが断らざるを得ない」(長野県・麻酔科)
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「病院周辺から離れられない」(長崎県・産婦人科)
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「休みがとれない」(山口県・小児科)
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「看護師が退職したあと補充ができなかった」(島根県・内科)
これらの声からは、医師個人の負担増大だけでなく、地域医療連携の困難さや、救急医療体制の維持そのものが危機に瀕している状況がうかがえます。

医師不足を深刻化させる構造的な課題
自由回答からは、さらに深い構造的な課題が見えてきます。
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救急医療体制の維持困難: 「救急医療が崩壊しかけている」といった声が示すように、地域によっては救急搬送患者の対応が困難な状況です。
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医師個人への負担集中: 「当直の多さ」「休暇取得が困難」「学会に行きづらい」といった課題は、医師のQOL(生活の質)を著しく低下させ、離職につながる可能性を秘めています。
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地域医療連携の課題: 「信頼できる紹介先が見つからない」「専門外の患者を紹介する際、受け入れ先を見つけるのが大変」といった問題は、患者さんが適切な医療にアクセスする機会を奪いかねません。
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診療科の偏在・スタッフ不足: 特定の診療科に医師が集中したり、看護師や事務員といった医療スタッフの不足が、医療提供体制全体のひずみをさらに大きくしています。
公的な指定区域の内外を問わず、このような構造的な課題が、より広い範囲で医療提供体制に歪みを生じさせているのです。
解決策の光と影:経済的インセンティブとICTの現実
医師偏在の是正に向けて、どのような対策が有効だと考えられているのでしょうか。
経済的インセンティブは“必要条件”だが、それだけでは不十分
医師偏在是正のために重要だと思う取り組みとして、最も多くの医師(66%)が「経済的インセンティブ」を支持しています。特に中規模以上の病院勤務医では71%に達し、報酬面での支援への強い期待がうかがえます。

しかし、現在医師少数区域で勤務していない医師のうち、今後「勤務したい」と答えたのはわずか14%にとどまり、6割超が「勤務したくない」と回答しています。

これは、経済的支援だけでは医師の地方勤務を促進するには限界があることを示しています。勤務条件の改善(勤務時間・日数:52%)、住居等の待遇改善(36%)、当直回数の上限設定(34%)、生活利便性(交通・商業施設等:33%)など、報酬・勤務環境・生活環境を総合的に改善することが不可欠だと考えられます。
ICTへの期待と現場からの“冷静な評価”
オンライン診療や遠隔医療支援といった医療ICTは、医師偏在是正につながると5〜6割の医師が肯定的に評価しています。しかし、実際に医師少数区域で働く医師ほど、ICTへの期待値はやや控えめです。

現場の医師からは「ICTは必要だが、人的リソース不足までは埋めきれない」「救急や当直負担は、結局リアルな医師がいなければ回らない」といった“冷静な期待値”が示されています。ICTは強力なツールではありますが、それだけで全ての課題を解決できるわけではないという現実を認識しておく必要があります。
スタートアップが学べること:課題の本質を見極め、現場に寄り添うDX
この調査結果は、医療分野で新たなサービスやソリューションを開発するスタートアップにとって、重要な示唆を与えてくれます。
- 課題の本質を見極める力: 公的な指定だけにとらわれず、「隠れ医師不足」のような見えにくい課題を発見する洞察力が求められます。データ分析や現場の声に耳を傾けることで、真のニーズを掘り起こすことが成功の鍵となります。
- 多角的なアプローチの重要性: 経済的インセンティブ、勤務・生活環境の改善、そしてICTの活用を「バラバラにではなく、現場にとって意味のある組み合わせで実装すること」が不可欠です。単一のソリューションだけでなく、複合的な価値提供を目指すことが競争力強化につながります。
- 「現場で役に立つかたち」でのテクノロジー実装: ICTへの期待は高いものの、現場の医師たちは現実的な視点を持っています。テクノロジーを導入する際には、それが実際に医師の負担を定量的に削減できるか、医療の質向上に貢献できるかといった、実用性と効果検証に重点を置く必要があります。単なる技術提供に終わらず、現場のワークフローに深く根ざしたサービス設計が求められます。
eヘルスケアの取り組み:医療情報の流通とテクノロジーで現場を支える
株式会社eヘルスケアは、今回の調査で浮き彫りになった「認識と指定のズレ」や「負担と生活の現実」といった課題に対し、医療情報の流通を軸に、ICTとAIを活用して現場の負担を軽減する取り組みを進めています。
同社は、以下の3つのアプローチで地域医療の課題解決に貢献しています。
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医療機関向けWeb構築・情報発信支援: 病院やクリニックのホームページ制作・運用支援を通じて、地域の医療情報流通を整備し、患者さんが適切な医療機関を見つけやすくすることで、地域医療の効率化を支援します。
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患者向け医療情報サービス「病院なび」: 全国23万件以上の医療機関情報を提供し、患者さんの適切な受療行動を後押しします。これにより、患者さんの不安を軽減し、医療機関への問い合わせ集中を分散する効果も期待できます。
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AI等の新技術による業務効率化: 医師の負担を定量的に削減できるようなICT・AIサービスを開発・提供することで、医療現場の生産性向上とコスト削減を目指します。
これらの取り組みは、医師の偏在是正だけでなく、医療機関全体の業務効率化や患者満足度向上にも寄与するでしょう。外注費削減や競争力強化にもつながるDX推進の具体的な事例として注目されます。
まとめ:地域医療の未来を共創するために
医師偏在問題は、単に医師の数を増やすだけでなく、人口配置、医療機関の集約、医師派遣の仕組みといった“設計そのもの”を見直す必要がある複雑な課題です。
今回の調査結果は、この課題解決には経済的インセンティブ、勤務・生活環境の改善、そしてICTの活用を、現場のニーズに合わせて組み合わせることが不可欠であることを示しています。
株式会社eヘルスケアは、今後も現場の声を社会に届けながら、ICTおよびAIを「現場で役に立つかたち」で提供し、地域医療の維持と課題解決に貢献していくとしています。
より詳細な調査結果は、以下のレポートで確認できます。
地域医療の持続可能性を高めるためには、私たち一人ひとりがこの問題に関心を持ち、医療従事者、企業、行政が一体となって解決策を模索していくことが求められています。DXによる医療現場の変革は、きっと明るい未来を切り開くでしょう。
