教員の学びを阻む経済的な壁
現在、大阪府をはじめとする一部の自治体では、教員が長期自主研修制度や大学院派遣制度を利用して休職する際、無給となり、副業も原則禁止されています。さらに、生活費や授業料も自己負担となるため、経済的な余裕がなければ学びの機会を得ることが難しい状況です。これは、教員の「学びたい」という意欲を経済的な理由で諦めさせてしまう大きな課題と言えるでしょう。
しかし、他の自治体では、休職中の給与の一部または全額支給、保険料・年金負担の継続、授業料補助といった手厚い支援を実施しているケースもあります。このアンケートは、そうした制度を利用した経験のある公立学校の教員(元教員)51名を対象に、2025年9月12日から9月30日にかけてインターネットで実施されました。調査の設問はこちらで確認できます: アンケート設問
アンケートから見えてきた学びの現状
どのような制度を利用して学びましたか?
アンケートによると、利用された制度で最も多かったのは「大学院修学休業制度」で、次に各種派遣制度(現職教員派遣、教職大学院派遣など)、「自己啓発等休業制度」が続きました。校種による大きな違いは見られなかったとのことです。

どこで学びましたか?
学んだ場所については、校種によって傾向が異なりました。小学校教員では「教職大学院」で学んだ方が過半数を占める一方、中学校・高等学校教員では「他の国内大学院」が最多でした。中には、フォルケフォイスコーレや国外の語学学校で学んだ方、Fulbright program (FLTA)を利用してアメリカで日本語教師をされた方もいました。

学びのための支援制度の有無
給与の支給
最も顕著な差が見られたのは金銭的なサポートです。各種派遣制度や長期研修制度では回答者全員が有給でしたが、大学院修学休業制度では42%が有給、58%が無給、自己啓発等休業制度では14%が有給、86%が無給という結果でした。同じ「大学院での修学」であっても、制度によって経済的負担が大きく異なる実情が浮き彫りになりました。

保険料・年金などの負担
保険料や年金の負担についても、自己啓発等休業制度では回答者全員が自己負担となっていました。派遣制度やその他の制度では自治体負担の割合が高い一方で、大学院修学休業制度では74%が自己負担と回答しています。

家賃手当等の住居サポート
住居サポートについても、制度によって大きな差が見られます。自己啓発等休業制度では71%が自己負担と回答しており、住居に関する支援が手薄な現状がうかがえます。

授業料・研究費の補助
授業料や研究費の補助は、どの制度においても「なし」と回答した方が多数を占めました。大学院修学休業制度では95%、自己啓発等休業制度では86%が補助なしと回答しており、学びにかかる費用が大きな障壁となっていることがわかります。

通学手当
通学手当についても、自己啓発等休業制度では53%が自己負担、大学院修学休業制度では71%が自己負担と、多くの教員が交通費を自費で賄っている実態が見て取れます。

復帰後の昇給は?
学びを終えて所属校に復帰した後、「昇給なし」と答えた方が全体の45%に上りました。多くの自治体で学びが直接的な昇給に繋がっていない実情が明らかになっています。専修免許の取得に伴う昇給についても、自治体や利用制度によって対応が異なり、運用の不統一が見られました。

多角的分析:教員の学びは教育の生産性向上と競争力強化のカギ
今回のアンケート結果は、教員が自らの資質向上を目指す際の制度的・経済的な課題を鮮明に浮き彫りにしました。
導入の成功事例と失敗事例から学ぶ
成功事例(派遣・研修型制度):給与や保険料、家賃手当などが比較的手厚く支給される「派遣・研修」型の制度は、教員が経済的な心配をせずに学びに集中できる環境を提供しています。これにより、教員は最新の教育理論や実践を深く学び、学校現場に新たな知見やスキルを持ち帰ることができます。これは、教育の質の向上に直結し、結果として生徒の学習効果を高め、学校全体の生産性向上に貢献すると言えるでしょう。
失敗事例(休業型制度):一方で、「休業」型の制度では、無給、副業禁止、授業料自己負担といった経済的負担が大きく、学びを深めることが困難になるケースが少なくありません。これは、教員のモチベーション低下や、優秀な人材が学びの機会を諦めてしまうことに繋がりかねません。長期的に見れば、教育現場の質の停滞を招き、学校としての競争力低下のリスクも孕んでいます。
スタートアップが学べることとビジネスチャンス
この課題は、教育分野における新たなサービスやソリューションのニーズを示唆しています。
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教員向け経済的サポートサービス: 休業中の教員向けに特化した低利貸付や奨学金プログラム、あるいは副業マッチングプラットフォームなど、経済的負担を軽減するサービスは大きな需要があるかもしれません。
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柔軟な学びの機会提供: 経済的な理由で長期休業が難しい教員のために、オンラインで受講できる高品質な研修プログラムや、短期間で集中して学べるモジュール型の学習コンテンツは、教員の学びの継続を支援し、教育の質を維持・向上させることに繋がります。
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自治体向け制度設計コンサルティング: 各自治体の状況に応じた、教員が学びやすい支援制度の設計や運用の効率化を支援するコンサルティングサービスも有効でしょう。これにより、自治体は教員の学びを促進しつつ、長期的なコスト削減や教育の競争力強化を図ることができます。
生産性向上とコスト削減への貢献
教員が安心して学び続けられる環境を整えることは、単に個人のスキルアップに留まりません。質の高い教育は、生徒の学力向上だけでなく、社会で活躍できる人材育成に繋がり、社会全体の生産性向上に貢献します。また、教員が自律的に学び、新たな知識や技術を習得することで、外部研修への依存度を減らし、教育現場の運営コスト削減にも寄与する可能性があります。
まとめ:教員の学びを社会全体で支えるために
教育公務員特例法(第21条)には、教員が自らの資質向上のために「研究と修養に努める義務」が明記されています。また、文部科学省も「教師が教職生涯を通じて探究心を持ちつつ自律的かつ継続的に新しい知識・技能を学び続ける」ことを目標に掲げています。しかし、今回のアンケート結果は、その理念と現状の間に大きな隔たりがあることを示しています。
教員が生活を犠牲にすることなく、安心して学びを深められる仕組みが整ってこそ、これらの理念は真に実現されるでしょう。今後は、自治体間での好事例の共有や制度の見直しを通じて、すべての教員が学び続けられる環境を整備することが求められます。これは、教育の質を高め、ひいては社会全体の未来を豊かにするための投資に他なりません。
School Voice Projectでは、引き続き現場の声をもとに、教員の「研究と修養」が実質的に保障される社会の実現を目指していくとのことです。

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