代替肉バーガー、本当に求められているのは「健康」だけじゃない?
近年、環境問題や動物福祉への意識の高まりから、代替肉が注目されています。特に代替肉バーガーは、その手軽さから多くの企業が開発に力を入れていますよね。これまでのマーケティングでは、「低カロリー・低脂肪でヘルシー」「環境に優しい」といった、健康面や利他的な側面が強調されることが多かったのではないでしょうか。しかし、こうした訴求だけでは、なかなか消費者の心をつかみきれないという課題に直面している企業も少なくありません。
「なぜ、これほどまでに良い商品なのに、十分に普及しないのだろう?」
そんな悩みを抱える企業やスタートアップの皆さんに、明治大学商学部の加藤拓巳准教授らの研究チームが、代替肉バーガー市場における消費者の意外な本音を解き明かしました。その鍵は、なんと「お腹いっぱい食べたい!」という、私たちの素直な欲求にあったのです。

エシカル消費の落とし穴:見せかけの「良い人」と本当の「満足」
エシカル消費は、社会や環境に配慮した消費行動を指しますが、その普及には難しい側面があります。多くの人が「環境に良いものを買いたい」「社会貢献したい」と口にする一方で、実際の購買行動では、自分の個人的な利益や満足感を優先しがちです。これは「社会的望ましさバイアス」と呼ばれ、調査では良い人として振る舞っても、いざ財布の紐を緩めるとなると、話は変わってくる、という人間の心理が働いています。
企業が「環境に優しいから」「動物に配慮しているから」といった利他的な動機ばかりを強調しても、消費者の「おいしさ」「満足感」といった利己的な欲求を満たせなければ、商品はなかなか選ばれません。まさに、消費者の「よだれの戦い」に打ち勝つことが、エシカル商品の成功には不可欠なのです。
明治大学の研究が示す「満腹感」の驚くべき効果
明治大学の研究チームは、この課題に対し、日本市場の代替肉を対象に新たなコンセプトを開発・実証しました。彼らは、ランダム化比較試験(RCT)という、科学的根拠に基づいた信頼性の高い手法を用いて、20~60代の日本人1,000人を対象にオンライン調査を実施。
「環境配慮」「動物福祉」といった利他的動機、「健康」といった従来の利己的動機に加え、代替肉が低カロリー・低脂肪である点を逆手にとり、「量を多く食べられる」という「満腹感」を訴求する新しい利己的動機のコンセプトを検証したのです。
その結果は驚くべきものでした。

消費者が最も魅力を感じたのは、なんと「満腹感」を訴求するコンセプトだったのです。従来の「健康」や「環境配慮」といった訴求よりも、「お腹いっぱい食べられる」というメッセージが、消費者の購買意欲を強く刺激することが明らかになりました。これは、ハンバーガーという食品が持つ「がっつり食べたい」「満足したい」という本質的な価値と、代替肉の「低カロリー・低脂肪」という特徴が、見事に結びついた結果と言えるでしょう。
導入を検討する企業が学ぶべきこと:生産性向上と競争力強化のヒント
この研究結果は、代替肉市場だけでなく、広くエシカル商品を扱うすべての企業にとって、非常に重要な示唆を与えてくれます。
1. 消費者インサイトの深掘りによる生産性向上
「消費者は何を求めているのか?」という問いに対し、表面的な回答だけでなく、その奥にある本音を捉えることが重要です。健康や環境への配慮はもちろん大切ですが、それだけでは「よだれの戦い」には勝てません。今回の研究のように、客観的なデータに基づいた消費者心理の分析は、無駄なR&Dやマーケティング費用を削減し、効果的な商品開発とプロモーションに繋がるため、結果的に生産性を大きく向上させます。
2. コスト削減と外注費削減
明確な消費者ニーズに基づいた商品コンセプトがあれば、ターゲット層に響くメッセージを効率的に開発できます。これにより、試行錯誤を繰り返すための広告費や、効果の薄いマーケティング戦略を外部に委託する外注費を削減できるでしょう。本質的な価値訴求に焦点を当てることで、コストパフォーマンスの高いビジネス運営が可能になります。
3. 競争力強化と差別化
多くの競合が「健康」「環境」といった切り口でアプローチしている中、「満腹感」という新たな価値で訴求することは、市場における強力な差別化要因となります。特にスタートアップ企業にとっては、大手とは異なる視点で市場に切り込むチャンスです。消費者の真の欲求を満たす商品を提供することで、顧客ロイヤルティを高め、持続的な競争優位性を築くことができるでしょう。
4. 導入後のメリット・デメリット
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メリット
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消費者の隠れたニーズに合致した商品を提供することで、売上と市場シェアの拡大が期待できます。
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エシカルな側面と個人的な満足感を両立させることで、ブランドイメージの向上と新たな顧客層の獲得に繋がります。
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競合他社との差別化を図り、市場での独自のポジションを確立できます。
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デメリット
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既存の「ヘルシー志向」のイメージから「満腹感」への転換には、戦略的なコミュニケーションと時間が必要です。
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健康意識の高い一部の層には、この訴求が響かない可能性もあるため、ターゲット層の細分化や多様なメッセージングが求められるでしょう。
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まとめ:エシカル消費は「おいしさ」から始まる
代替肉バーガーの普及には、環境や健康といった「利他的動機」だけでなく、「お腹いっぱい食べたい」という「利己的動機」を満たすことが極めて重要である、という明治大学の研究結果。これは、エシカル消費を推進する企業にとって、大きなヒントとなるでしょう。
消費者が本当に求めているのは、社会に良いことをしているという「満足感」と、自分自身が「おいしい」「嬉しい」と感じる「満足感」の両方です。特に食品においては、後者の「よだれ」を引き出す価値設計が、何よりも優先されるべきなのかもしれません。
この研究は、日本マーケティング学会の査読論文誌「マーケティングジャーナル」に掲載されています。より詳細な情報や、加藤拓巳准教授の活動にご興味がある方は、以下のリンクもご参照ください。
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論文情報:加藤拓巳・松田敦樹・伊熊結以・小泉昌紀. (2025). 利己的動機の新たな商品コンセプトと利他的動機の魅力を高める消費者経験―日本市場での代替肉を対象としたエシカル消費の推進―. マーケティングジャーナル.
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加藤拓巳准教授Webサイト:https://takumi-kato.com/
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加藤拓巳准教授による経団連 消費者政策委員会企画部会での講演:「エシカル消費の普及には『よだれの戦い』から逃げてはならない」:https://www.meiji.ac.jp/koho/press/2025/qfki0t00000449h4.html
