この実証実験が解決する3つの大きな課題
1. 積雪・視界不良による自動運転の不安定性
雪や氷に覆われた路面、吹雪による視界不良は、自動運転技術にとって最大の難関の一つです。従来の自動運転システムでは、このような環境下での安定走行は極めて難しいとされてきました。本実証実験では、IOWN® APNや高度WiGigといった先端通信技術を活用し、膨大なセンサーデータを低遅延で伝送。さらに、積雪や路面状況をリアルタイムで把握し、走行経路や制御に柔軟に反映させることで、豪雪地帯でも安全に運行できる自動運転の実現を目指します。
2. バスドライバー不足による公共交通の維持困難
全国的に深刻化するバスドライバー不足は、地方都市の公共交通網を脅かしています。千歳市も例外ではなく、路線の減便や廃止は市民生活に大きな影響を与えかねません。自動運転バスが実用化されれば、ドライバー不足の問題を根本的に解決し、公共交通の持続可能性を高めることができます。これにより、安定した運行が可能となり、生産性向上や人件費のコスト削減にも繋がることが期待されます。
3. 通信の不安定性
自動運転には、車両とインフラ間での大容量データの安定した伝送が不可欠です。特に悪天候時には、通信環境が不安定になりがちです。本実証実験では、キャリア5G/LTE回線と5Gワイドによる優先制御を適用し、電波状況が変動する環境下でも車両制御に必要な情報を安定的に送受信できることを確認します。また、docomo MEC®を活用し、地域内でデータ処理を行うことで、通信遅延を低減し、より迅速な状況把握と制御を可能にします。
実証実験の概要と技術の力
本実証実験では、以下の2つの観点から、豪雪・寒冷地における自動運転バスの安全かつ安定的な走行を目指します。
(1) 大容量データを伝送可能な通信環境の実現
IOWN® APNや高度WiGigといった最新の通信技術を駆使し、走行中の膨大なセンサーデータを低遅延で伝送する仕組みを検証します。さらに、docomo MEC®により、積雪や除雪状況を反映した3Dマップを迅速に生成・更新。これにより、寒冷地特有の路面状況をきめ細かく把握しながら安全走行を可能にする通信・制御基盤の有効性が検証されます。
(2) 雪道の状況に合わせた柔軟な自動運転走行の実現
道路灯や信号機からリアルタイムで取得する積雪・路面情報と、車載のLiDARや車両センサー情報を統合し、docomo MEC®上でリアルタイムに処理します。この情報をもとに、走行経路を積雪状況や除雪作業の進捗に応じて柔軟に変更できるかを検証。突発的な降雪や気象条件の変化にも即座に対応できる仕組みを構築し、豪雪・寒冷地に適応した安定的な自動運転サービスの実現可能性を探ります。

今回の実証実験の詳細は以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 実証場所 | 北海道千歳市 千歳市役所周辺(仲の橋通、東大通)及び、千歳駅、新千歳空港、美々地区(公立千歳科学技術大学、建設中の大規模半導体製造工場付近) |
| 自動運転車両 | ・自動運転レベル2 ・いすゞ自動車(株)製「エルガ」 |
| 運行期間 | 2026年1月14日~1月24日(日曜除く) |
| 乗車場所 | 新千歳空港 国内線ターミナル (南) 許可車乗降所 |
| 運行区間 | ①新千歳空港-千歳駅西口(循環) 途中停車所:ママチ公園前、千歳市役所前 ②新千歳空港-建設中の大規模半導体製造工場前(循環) 途中停車所:千歳科学技術大学前 |
| 遠隔監視システム設置場所 | NTTドコモ北海道ビル |


さらに、本実証では技術検証だけでなく、自動運転バスの社会受容性向上にも力を入れています。車内にタブレット端末を設置し、空港のフロアマップ、航空便の運航情報、観光情報などを提供。利用者の利便性向上と安心感の醸成を図り、移動手段以外の付加価値創出を目指しています。これにより、単なる移動ではなく、快適で魅力的な移動体験を提供することで、利用者の心理的なハードルを下げ、自動運転バスが地域に広く受け入れられる土壌を育む狙いです。
導入後のメリット・デメリット
メリット
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公共交通の持続可能性向上と生産性向上: ドライバー不足という社会課題を解決し、路線の維持・拡大に貢献します。これにより、運行の安定化と効率化が進み、生産性が大幅に向上するでしょう。
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安全性の大幅な向上: 積雪や視界不良といった悪天候時でも、高精度なセンサーとリアルタイム通信、柔軟な走行制御により、安全な運行が期待できます。事故リスクの低減は、利用者だけでなく運行事業者にとっても大きなメリットです。
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コスト削減: ドライバー人件費の削減だけでなく、事故が減少すれば修理費や保険料などの外注費削減にも繋がります。長期的には運行コスト全体の最適化が期待できます。
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地域経済の活性化と競争力強化: 新千歳空港や建設中の大規模半導体製造工場といった主要拠点へのアクセスが安定することで、観光客誘致や企業誘致にも良い影響を与え、地域の競争力強化に貢献します。
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移動体験の付加価値向上: 車内での情報提供サービスにより、移動時間が単なる移動ではなく、有益で快適な時間へと変わります。これは、公共交通の新たな魅力となり、利用者の満足度を高めるでしょう。
デメリットと課題
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初期導入コスト: 先端技術の導入やインフラ整備には、多額の初期投資が必要です。この費用をいかに回収し、持続可能な事業モデルを構築するかが課題となります。
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技術的な限界と予期せぬ状況への対応: どんなに高性能なセンサーやAIでも、予期せぬ路面状況や突発的な気象変化に完璧に対応できるとは限りません。技術のさらなる進化と、非常時の対応プロトコルの確立が重要です。
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法規制と社会受容性: 自動運転レベル4の実現には、まだ法整備や社会の理解が必要です。特に、事故発生時の責任の所在など、法的な枠組みの明確化が求められます。また、市民が自動運転バスを安心して利用できるような啓発活動も不可欠です。
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システム障害のリスク: 通信途絶やシステムエラーが発生した場合の運行停止リスクも考慮する必要があります。安定した通信環境の維持と、バックアップシステムの構築が重要です。
スタートアップが学べること
この実証実験は、スタートアップ企業にとっても多くの学びとビジネスチャンスを示唆しています。
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地域課題と先端技術の融合: 豪雪・寒冷地という具体的な地域課題に対し、自動運転、IOWN® APN、WiGig、MECといった複数の先端技術を組み合わせて解決しようとするアプローチは、非常に参考になります。地域のニーズに深く寄り添い、既存技術を組み合わせることで、新たな価値を生み出すヒントがここにあります。
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産学官連携の重要性: NTTドコモビジネス、A-Drive、スタンレー電気、千歳市、公立千歳科学技術大学、アイサンテクノロジー、東海理化、スマートモビリティインフラ技術研究組合、日本航空といった多岐にわたるステークホルダーが連携しています。一つの企業だけでは解決できない大規模な社会課題に対し、それぞれの強みを持ち寄ることで、より大きな成果を生み出すことができます。スタートアップは、自社の技術やサービスを活かせるパートナーを見つけ、積極的に連携を模索すべきでしょう。
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社会受容性向上のための工夫: 技術の進化だけでなく、利用者体験を重視したサービス設計(タブレット情報提供など)は、社会実装を加速させる上で不可欠です。技術先行ではなく、ユーザー目線で「本当に便利か」「安心して使えるか」を追求する姿勢は、あらゆるサービス開発において重要です。
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持続可能な事業モデルの構築: 実証実験で得られた知見を基に、収益化の道筋を描き、協業パートナーを募りながらサービス化を目指す方針は、スタートアップが成長していく上での重要な視点です。単なる技術検証で終わらせず、いかに事業として成立させるかを常に考える必要があります。
まとめ
千歳市で始まった自動運転バスの実証実験は、豪雪地帯という厳しい条件下での公共交通の未来を切り開く、画期的な取り組みです。ドライバー不足の解消、運行の安全性向上、地域経済の活性化、そして利用者の移動体験の向上といった多岐にわたるメリットが期待されます。
もちろん、技術的課題や社会受容性の課題も残されていますが、産学官の連携によるこの挑戦は、きっと全国の豪雪地帯における自動運転バスの社会実装を加速させるでしょう。そして、自動運転「レベル4」の早期実現に向けた大きな一歩となることは間違いありません。この未来を見据えた取り組みが、私たちの暮らしをより豊かで便利なものにしてくれることに期待が高まります。
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