シリコン中の水素が「自由電子」を生む謎を解明!パワー半導体進化で電力損失ゼロへ
半世紀の謎が解き明かされた瞬間
現代社会の電力効率を左右する「パワー半導体」。その心臓部であるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)の性能向上は、カーボンニュートラル社会実現への大きな鍵を握っています。しかし、長らく半世紀もの間、その性能を左右する「ある現象」のメカニズムは謎に包まれていました。
今回、株式会社Quemix、三菱電機株式会社、国立大学法人東京科学大学、国立大学法人筑波大学の4者が、この長年の謎を世界で初めて解明しました。それは、「シリコンに注入された水素が、どのようにして自由電子を生成するのか」という、まさに電力損失低減の根本に関わるメカニズムです。

私たちの暮らしを変える「自由電子」の秘密
IGBTでは、水素イオンをシリコンに注入することで電子濃度を制御し、電力変換効率を高める技術が使われています。この技術はすでに実用化されていますが、その背後にある原理は不明でした。2023年には、三菱電機と筑波大学が、電子濃度の増加に寄与する「複合欠陥」を発見。これが格子間シリコン対と水素の結合によって形成されることは明らかになったものの、なぜそこから自由電子が生まれるのかは、依然として疑問でした。
今回の共同研究では、この複合欠陥に焦点を当て、第一原理計算などの最先端技術を駆使して、水素が複合欠陥中でどのように振る舞うかを明らかにしました。そして、水素が電子を放出し、その電子がシリコン中で自由電子となるメカニズムを理論的に解明したのです。これにより、電力損失を最小限に抑えるためのIGBTの構造設計や製造方法を、さらに高度に最適化することが可能になります。
この発見が解決する課題と私たちのメリット
電力損失の劇的な低減
このメカニズムの解明は、IGBTの電子濃度制御を飛躍的に高めます。これにより、電力変換時のロスを大幅に削減できるようになり、家電製品から産業機器、電気自動車に至るまで、あらゆる電力を使用する機器のエネルギー効率が向上します。これは、電気代の削減という形で私たちの家計に、そして地球温暖化対策という形で地球全体に大きなメリットをもたらします。
カーボンニュートラル社会への貢献
電力損失の低減は、そのまま「省エネルギー」に直結します。世界中で高効率化・省エネルギー化が叫ばれる中、この技術はカーボンニュートラル社会の実現に向けた強力な推進力となるでしょう。
競争力強化と新たな産業の創出
パワー半導体は、現代社会を支える基盤技術です。この分野での技術革新は、日本の産業全体の競争力を強化し、新しい技術や製品が生まれるきっかけにもなります。将来的には、従来のシリコンやSiCよりも優れた特性を持つUWBG(Ultra Wide Band Gap)材料、例えばダイヤモンドを用いたデバイスへの応用も期待されており、材料計算が非常に困難なダイヤモンドにおける電子濃度制御の可能性も示唆されています。
スタートアップが学ぶべき「深掘り」の価値
今回の成果は、Quemixのようなスタートアップ企業が、大学や大企業と連携し、基礎研究を深掘りすることの重要性を示しています。表面的な課題解決だけでなく、半世紀もの間未解明だった根本原理に挑む姿勢は、真のイノベーションを生み出す上で不可欠です。
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長期的な視点での研究開発: 短期的な成果に囚われず、長期的な視点で基礎研究に取り組むことで、社会に大きなインパクトを与える可能性を秘めています。
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産学連携の力: Quemix、三菱電機、東京科学大学、筑波大学という異なる専門性を持つ組織が協力することで、多角的なアプローチが可能となり、単独ではなし得ない大きな成果を生み出しました。
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量子技術の応用: Quemixが量子コンピュータのアルゴリズム開発で培った「第一原理計算」の技術が、今回の物理現象の解明に大きく貢献しています。これは、最先端技術が既存の科学的課題解決にどのように貢献できるかを示す好例です。
今後の展望と期待
今回の発見は、パワー半導体の性能向上における新たな扉を開きました。IGBTの電力損失低減はもちろんのこと、ダイヤモンドのような次世代半導体材料への応用は、まだ見ぬ未来の技術を拓く可能性を秘めています。
電力効率の改善は、私たちの生活の質を高め、持続可能な社会を築く上で欠かせません。この画期的な研究が、今後どのように実用化され、私たちの未来を豊かにしていくのか、その展開に期待が膨らみます。
詳細については、Quemixのウェブサイトでもご確認いただけます。
